私が表現できるものは、ただ私にしか書けないことで、ただ私が書きたいだけのもの。 誰のために紡ぐでもなく、自分のために紡ぐものであれば、どのような物語も私の中にあるもので、嘘事は夢でもある。夢を偲ぶことは時に罪悪にもなる。甘美なものにひたっているのだから――――――。
夢物語をただ夢で終わらせたくなくて、私の物語を私以外の心に忍び込ませるならば、それは浸食である。一度目にしてしまったものは喪失させられても消滅はさせられないのだから。心の片隅に嘘事を囁くために綴られていく文字を止めないのならば、私は無言であろうとも知ってほしいと訴えているのかもしれない。自己を顕示していくことは生きていくことにも等しい。私は私のためにしか生きていかないのに、誰かがいなければ私を保てないのだ。
この世界が真実というのならば嘘事は常に真実から生まれてくる。嘘事がなく真実しかなければ、それを真実と肯することもできない。嘘事を否定するならばそれは絶対で曖昧な存在。嘘事を心の片隅におくことで、私は現と夢の境界に住まうことを思う。
果てしない夢をみよう。
地を踏みしめ進むために。
私は関わりを持つことを極力避け、自らの中に虚構の宮を築き上げ、どこにあってもどこでもない存在に憧れるとともに嫌悪を抱いている。私を構成するものが貪欲に悲鳴を上げるのである。強い意志のもとで私は曖昧なのではなく、脆弱な性根に曖昧だからである。
私が私であることを、そこに存在することを望んでいる。

綴り続ける物語はすべて私の真実ならば、現にいる私はその分嘘事である。
この宮が私の中の真実を語るというならば、虚構に築き上げられた土台に私の真実の城が存在する。砂の城よりも脆いそれは変幻自在の不確かな存在で、それが真実だというならば偽りの嘘事こそが鉄壁の城となるだろう。私は常に嘘事をかぶっている。嘘事の私が私でないのならば、この現に私を知るものは誰もいない。嘘事を否定するならば私を否定することになるだろう。私は真実と嘘事を含めて私であり、私が私だと叫んでいるのは常に奥の奥のそこにある。
真実が常に簡素で単純なものならば、嘘事は複雑で怪奇なものである。私は髄をこらした複雑なものを好み、怪奇なものを言の葉に表すのを喜ぶ。簡素で単純なものはたまに目を向けてはそれが原本であり基本であったことを思い出す。
私の心の底の底のおくに開いた状態の真っ白な本持つからこそ、その上に鮮やかな色や、凝った模様を重ねたくなる。私は常に裸体に服をまとっているのだから。